会社を売却したとき、税金はいくらかかるのか。結論から言うと、オーナー個人が株式を譲渡する場合、税金は譲渡益に対して約20%(正確には20.315%)です。給与や役員報酬にかかる税率(住民税と合わせ最高55%程度)と比べると、会社売却は税制上かなり優遇された資金化の方法だと言えます。この記事では、その仕組みと計算例、注意点を解説します。

株式譲渡の税金は「約20%の分離課税」

個人株主が非上場株式を譲渡した場合の税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。

重要なのは、これが申告分離課税であることです。給与や事業の所得とは切り離して計算されるため、譲渡益がどれだけ大きくても税率は一律。数億円の譲渡益でも20.315%で変わりません。累進課税に慣れた経営者ほど、「そんなに安いのか」と驚かれるポイントです。

計算例——2億円で売却した場合

株式を2億円で譲渡し、その株式の取得費(会社設立時の出資額)が1,000万円だったとします。

譲渡益は2億円−1,000万円−譲渡費用(仲介手数料等)。仲介手数料を1,000万円とすると、譲渡益は1億8,000万円。税額はその20.315%で約3,657万円。手取りは約1億5,300万円強となります。

なお、取得費が不明な場合や極端に小さい場合は、譲渡価額の5%を取得費とみなす取り扱いがあります。創業から年数が経った会社では取得費の確認自体が論点になるため、早めに設立時の資料を確認しておきましょう。

事業譲渡の場合は税金の構造が変わる

会社ではなく事業を売る(事業譲渡)場合、税金の流れはまったく異なります。譲渡代金は会社に入り、譲渡益に法人税等(実効税率でおよそ30%台)が課されます。さらに、そのお金をオーナー個人が受け取るには、役員報酬・退職金・配当・清算のいずれかの形を取る必要があり、そこで二度目の課税が発生します。

つまり、同じ「会社を手放す」でも、株式譲渡は一段階・約20%、事業譲渡は二段階課税になり得る、という構造の違いがあります。もちろん事業譲渡には「必要な事業だけ譲れる」等の利点があり、税金だけで手法を決めるものではありませんが、手取りへの影響が大きいことは知っておくべきです。

手取りをさらに左右する2つの論点

第一に、役員退職金の活用です。譲渡対価の一部を退職金として受け取る設計にすると、退職所得の優遇(退職所得控除と2分の1課税)により、全体の手取りが改善するケースがあります。買い手側にも損金算入のメリットがあるため、中小M&Aでは定番の設計です。詳しくは役員退職金を使った売却スキームで解説しています。

第二に、役員借入金の扱いです。社長が会社に貸しているお金は、株式の譲渡代金とは別に返済を受けられます。貸付金の返済は原則課税されないため、譲渡対価と借入金返済の配分は手取り設計の重要な要素になります(役員借入金がある会社の売却参照)。

株主が個人でなく法人(資産管理会社)の場合

株式をオーナー個人ではなく資産管理会社が保有しているケースでは、税金の景色が変わります。法人が株式を譲渡した場合、譲渡益は法人の所得として法人税等(実効税率でおよそ30%台)の課税を受けます。個人の20.315%より重くなる一方、譲渡代金は法人に入るため、そのまま法人内で再投資や資産運用に回すなら、個人に配当するまで二段階目の課税を繰り延べられます。

「個人で受けて約20%を払い切るか、法人で受けて運用しながら課税を繰り延べるか」——正解は、売却後の資金の使い道(生活資金か、再投資か、次世代への承継か)によって変わります。株主構成は売却の何年も前から決まっているものなので、売却を視野に入れた時点で、持ち方そのものを見直す価値があります。

税金はいつ払うのか——資金繰りの注意

株式譲渡の税金は、譲渡した年の翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で申告・納付します。つまり、代金を受け取ってから納税まで最長1年以上の間が空きます。

ここに落とし穴があります。手取り気分で使ってしまい、翌年の納税資金が足りない——笑い話のようですが、実際に起こります。譲渡代金を受け取ったら、税額相当分(約20%)は最初から別口座に確保しておくこと。売却直後の資産運用や大きな買い物は、納税資金を除いた残りで計画してください。

注意——税率や制度は「一般論」で終わらせない

ここで説明した内容は、現行制度に基づく一般的な整理です。株式の保有形態(個人か資産管理会社か)、譲渡の方法、退職金の金額設定などによって、実際の税負担は大きく変わります。特に退職金の適正額や取得費の取り扱いは税務調査でも論点になりやすい部分です。実行の前には、必ず税理士等の専門家に個別の状況でご確認ください。

参考——会社資金を個人に移す5つの出口と税負担

視野を広げると、会社にある価値をオーナー個人に移す方法は、株式譲渡以外にもあります。ざっくり比較すると——①株式譲渡(M&A)は譲渡益に約20%の分離課税。②役員退職金は控除と2分の1課税で、金額によっては20%を下回る優遇。③役員報酬・配当は総合課税で、高額になるほど税率が上がり最も重くなりがち。④会社清算時の残余財産分配は、資本金等を超える部分が配当課税(総合課税)。⑤株式のまま相続すれば相続税の対象で、税率は財産規模により変動——という構造です。

こうして並べると、「会社を経営し続けて報酬・配当で受け取る」よりも、「M&A+退職金」の組み合わせが税負担の面で有利になりやすい理由が見えてきます。もちろん税金だけで人生の選択を決めるものではありませんが、出口ごとの税率構造を知っているだけで、承継の議論の解像度は大きく上がります。

まとめ——「いくらで売れるか」と「いくら残るか」はセットで

会社売却の検討では、売却価格だけでなく、税引き後の手取りまで一気通貫で設計することが重要です。約20%という優遇された税率を最大限に活かせるかどうかは、売却前の設計次第です。売却価格の相場観は会社売却の相場はいくら?とあわせてご覧ください。

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