「会社の値段を知りたい。でも、いきなり仲介会社に問い合わせるのは気が引ける」——その感覚は正常です。売ると決めてもいない段階で営業を受けたい人はいません。実は、会社のおおよその値段は、決算書さえ手元にあれば自分で確認できます。この記事では、手軽な順に3つの方法と、それぞれの精度・限界を解説します。

方法①:自分で計算する(所要10分)

中小企業のM&Aで使われる標準的な計算式は、次のとおりです。

会社の値段の目安 = 時価純資産 + 実質利益 × 2〜5年

手順は3ステップです。まず、直近の決算書の貸借対照表から純資産の部の合計を確認します。次に、不動産や生命保険の含み損益を加減算して時価純資産に直します。最後に、損益計算書の営業利益(できれば3期平均)に、役員報酬の相場超過分などを調整した実質利益を求め、その2〜5年分を上乗せします。

たとえば純資産8,000万円・含み益2,000万円・実質利益2,000万円なら、1億4,000万〜2億円がレンジです。計算式の詳しい中身は年買法とはをご覧ください。

方法②:無料の簡易診断ツールを使う(所要3分)

「計算式は分かったが、含み益の扱いや38%控除など、細かい部分を自分でやるのは面倒」という方のために、当社では無料の簡易株価診断ツールを公開しています。

入力するのは6項目だけです。簿価純資産、不動産等の含み損益、保険積立金の含み益、営業利益(3期平均)、役員報酬の調整額、営業権の年数(スライダーで2〜5年)。すべて決算書からの転記で済みます。

結果は2つの数字で表示されます。ひとつはM&A想定価格のレンジ、もうひとつは相続税評価の簡易的な目安です。この2つを並べて見られることがポイントで、「持ち続けた場合の税負担の基準」と「売却した場合の値段」の差を一目で確認できます(なぜ差が生まれるかは自社株の相続税評価とM&A売却価格はなぜ違う?で解説しています)。

なお、このツールの入力データが当社に送信されることはありません。すべてお使いのブラウザの中だけで計算されるので、社名も数字も、誰にも知られずに試せます。

方法③:専門家の株価算定書(精度が必要になったら)

方法①②はあくまで概算です。実際に売却交渉に入る段階、あるいは相続対策と売却を本格的に比較する段階では、専門家による株価算定書が必要になります。

株価算定書では、類似業種比準方式と純資産価額方式の併用による正確な相続税評価、非経常損益の精査、類似会社比較(マルチプル)やDCF法など複数のアプローチでの企業価値評価を行います。交渉の場で「なぜこの価格なのか」を裏付ける根拠資料にもなり、買い手との価格交渉で威力を発揮します。

診断結果の「2つの数字」の読み方

簡易診断で表示される2つの数字は、それぞれ次のように読んでください。

M&A想定価格のレンジは、営業権を利益の2年分と見た下限から、5年分と見た上限までの幅です。幅が広いと感じるかもしれませんが、これは「あなたの会社の評価は、磨き上げ次第でこの幅の中を動く」という意味でもあります。下限は今すぐ売った場合の保守的な目安、上限は組織化と収益の安定化を進めた場合の到達点、と捉えると行動につながります。

相続税評価の目安は、持ち続けた場合の税負担の基準です。M&A想定価格が相続税評価を大きく上回っているなら、「売る選択肢」を検討する価値が数字で裏付けられたことになります。逆に下回っているなら、資産が重く収益が薄い状態なので、不動産の整理や事業の立て直しが先、という判断材料になります。

よくある質問

Q. 直近期が特別に良かった(悪かった)のですが。——一時的な特需や特損は除いて、平常の実力値で入力してください。3期平均を使うのはそのためです。

Q. 個人事業でも使えますか。——考え方は同じです。事業用資産の時価と、生活費と混ざった経費を調整した実質利益で計算してください。

Q. 診断結果より高く売れることはありますか。——あります。買い手とのシナジーが大きい場合や、複数の買い手候補が競合した場合、レンジの上限を超える成約は実務で普通に起こります。概算はあくまで交渉の出発点です。

概算で確認するときの3つの注意点

第一に、簡易計算は「意思決定の入口」に使うものです。この数字だけで売却価格を約束することも、税務申告に使うこともできません。第二に、業種と個社事情で振れ幅が大きいこと。許認可や人材が価値になる業種では概算より高く、社長依存が強い会社では低く出る傾向があります。第三に、税金を引く前の数字であること。手取りの検討には譲渡時の課税を考慮する必要があり、個別の税負担については税理士等の専門家にご確認ください。

値段を知るべき3つのタイミング

「いつか知ればいい」と思われるかもしれませんが、会社の値段が特に効く場面は3つあります。

第一に、事業承継を考え始めたとき。継がせる・売る・畳むの比較は、時価が分からなければ始まりません。第二に、相続対策を立てるとき。自社株の相続税評価だけを見て対策すると、「売れば2倍の値段がつく会社」という視点が抜け落ちます。対策の前提となる財産の全体像に、市場価値の情報を加えてください。第三に、銀行と向き合うとき。自社の事業価値を数字で語れる経営者は、融資交渉でも一段違う扱いを受けます。

いずれの場面も、精緻な算定書が必要になるのは後の話で、最初の一歩は概算で十分です。60歳を過ぎたら年に一度、決算のたびに自社の値段を確認する——健康診断と同じ習慣にすることをおすすめします。

「知る」ことに義務は発生しない

値段を知ったからといって、売る義務はもちろん、誰かに相談する義務すらありません。ただ、自社の時価を知っている経営者と知らない経営者では、事業承継・相続対策・銀行交渉、あらゆる場面での判断の質が変わります。健康診断と同じで、まず現状を数字で把握することがすべての出発点です。

繰り返しになりますが、診断ツールの入力データは外部に送信されず、社名の入力も不要です。「調べたこと自体を誰にも知られたくない」段階の経営者のために、そう設計しました。まずは決算書を1冊手元に置いて、6項目を埋めてみてください。

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