事業譲渡では、譲渡する資産の内容によって消費税が発生します。株式譲渡(株式そのものの売買)では消費税はかかりません。この違いを知らずに事業譲渡のスキームを進めると、資金繰りの見込みが狂うことがあります。この記事では、事業譲渡で消費税がかかる仕組みと、株式譲渡との税負担比較を解説します。

事業譲渡で消費税が発生する仕組み

事業譲渡は、法律上「資産の譲渡」に当たります。消費税は、事業者が対価を得て資産を譲渡・貸付け・サービス提供を行った場合に課される税金ですから、事業譲渡による資産の移転も、原則として消費税の課税対象になります。

具体的には、譲渡する会社(売り手)が、買い手から受け取る譲渡対価のうち課税資産に対応する部分に消費税を上乗せして請求し、預かった消費税を納税する義務を負います。買い手からすると、事業譲渡の対価には「本体価格+消費税」という構造が生じるということです。

これは株式譲渡とはまったく異なる点です。株式譲渡は株式という有価証券の売買であり、有価証券の譲渡は消費税の非課税取引に該当します。同じ「会社を売る・事業を売る」という取引でも、法律上の位置づけが違うため、消費税の扱いも大きく異なるのです。この違いは、株式譲渡と事業譲渡の違いでも詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。

消費税がかかる資産・かからない資産

事業譲渡の対価には、複数の資産が含まれるのが通常です。それぞれの資産ごとに、消費税がかかるかどうかが異なります。

課税資産(消費税がかかるもの)の代表例は、棚卸資産(商品・製品在庫)、機械装置・車両・什器備品などの有形固定資産、営業権(のれん)です。特にのれんは、事業譲渡の対価の中で大きな比重を占めることが多く、金額が大きい分、消費税額も無視できない規模になりがちです。

非課税資産(消費税がかからないもの)の代表例は、土地、有価証券、売掛金などの金銭債権です。土地は消費税法上、非課税取引と定められています。売掛金などの債権は、資産の譲渡ではなく金銭債権の譲渡として扱われるため、こちらも非課税です。

つまり、事業譲渡契約書を作成する際には、譲渡対価を資産ごとに区分して、課税資産と非課税資産の内訳を明確にしておく必要があります。この区分が曖昧なままだと、後になって税務調査で消費税の計算根拠を問われる可能性があります。個別の資産区分の判定は、税理士等の専門家に確認しながら進めることをお勧めします。

数値例——純資産8,000万円の会社を事業譲渡した場合

具体的な数値で見てみましょう。純資産8,000万円、営業利益1,500万円〜2,000万円程度の会社が、事業譲渡によって事業全体を1億2,000万円で譲渡するケースを想定します。

譲渡対価1億2,000万円の内訳が、棚卸資産2,000万円、機械設備1,000万円、のれん4,000万円、土地3,000万円、売掛金等2,000万円だったとします。このうち課税資産は棚卸資産・機械設備・のれんの合計7,000万円で、非課税資産は土地・売掛金の合計5,000万円です。

課税資産7,000万円に対して消費税(標準税率10%)が課されるため、消費税額は700万円。買い手は本体価格1億2,000万円に加えて700万円の消費税を支払い、合計1億2,700万円を用意する必要があります。売り手は預かった700万円を、原則として譲渡があった課税期間の確定申告で納税します。

買い手にとっては、この700万円は最終的に仕入税額控除によって取り戻せる部分が多いものの、譲渡実行時点ではまとまった資金を一時的に立て替える形になります。買収資金の調達計画を立てる際には、消費税分も含めた総額で資金繰りを見積もっておくことが重要です。

株式譲渡なら消費税はかからない——両者の税負担比較

同じ会社を株式譲渡で売却した場合、消費税の問題はそもそも発生しません。株式の譲渡は非課税取引だからです。売り手個人が受け取る譲渡対価は、そのまま譲渡所得の計算に進みます。

個人株主が非上場株式を譲渡した場合の税率は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税を合わせて約20%(20.315%)の分離課税です。事業譲渡のように消費税の預かり・納税という事務負担が生じない分、手続きはシンプルになります。

一方で、事業譲渡の場合、消費税に加えて法人税等の課税も発生します。譲渡益は会社の所得として法人税等(実効税率でおよそ30%台)が課され、さらにそのお金をオーナー個人が受け取る際には、役員報酬・退職金・配当などの形で二度目の課税を受けます。株式譲渡と比べて、消費税と法人税等の両面で税負担の構造が異なる点は、事前に把握しておくべきポイントです。税負担の全体像は会社売却の税金でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

消費税以外にも生じる違い——不動産取得税・登録免許税

事業譲渡では、消費税以外にも株式譲渡にはないコストが発生します。事業用の不動産が含まれる場合、所有権移転に伴って不動産取得税や登録免許税がかかります。不動産取得税は都道府県税で、固定資産税評価額に応じて課税されるため、事業用不動産の評価額が大きいほど負担も大きくなります。

また、契約の巻き直しも実務上のコストです。事業譲渡では、取引先との契約、賃貸借契約、許認可などを個別に買い手へ承継し直す必要があり、契約書の印紙税や手続きの手間もかかります。株式譲渡であれば会社そのものの株主が変わるだけなので、こうした個別の契約承継は原則として不要です。

このように、事業譲渡は「必要な事業だけを切り出して譲れる」という機動性の高さがある一方、消費税・不動産取得税・登録免許税・契約の巻き直しコストなど、株式譲渡にはない負担が積み重なる構造になっています。どちらの手法を選ぶかは、税負担だけでなく、事業の切り分けやすさ、簿外債務の遮断効果なども含めて総合的に判断する必要があります。

よくある質問

Q. 消費税は売り手と買い手のどちらが負担しますか。

譲渡対価に消費税を上乗せして請求するのが原則ですので、実質的な負担者は買い手です。ただし、買い手にとって課税仕入れに該当する部分は、後日の申告で仕入税額控除の対象になり得ます。控除の可否や範囲は取引の形態によって異なるため、個別の適用は税理士等の専門家に確認してください。

Q. 売り手が消費税の免税事業者の場合はどうなりますか。

売り手が免税事業者であれば、消費税の納税義務自体が生じません。ただし、事業譲渡の規模によっては、譲渡対価が高額になることで納税義務の判定基準を超えるケースもあります。また、インボイス制度のもとでは、買い手が仕入税額控除を受けるために、売り手の登録状況が影響することもあります。この点も専門家への確認が欠かせません。

Q. のれんの評価額を小さくすれば消費税を減らせますか。

のれんの金額は、事業の収益力をもとに算定されるべきものであり、消費税負担を減らす目的だけで恣意的に圧縮すると、税務調査で否認されるリスクがあります。譲渡対価の資産区分は、実態に即して合理的に説明できる根拠が必要です。

まとめ——事業譲渡は消費税まで含めた資金計画を

事業譲渡は、必要な事業だけを切り出せる柔軟性がある一方、課税資産に対する消費税、不動産取得税、登録免許税など、株式譲渡にはないコストが発生します。特に消費税は、譲渡対価の資産区分によって金額が大きく変わるため、契約書を作成する段階から資産ごとの内訳を明確にしておくことが重要です。株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶべきかは、税負担・資金繰り・簿外債務の遮断効果などを総合的に見て判断する必要があります。個別の税務上の取り扱いについては、税理士等の専門家に確認しながら進めることをお勧めします。

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