M&A仲介会社の料金表でよく目にする「レーマン方式」。同じレーマン方式を名乗っていても、手数料率を掛ける「算定基礎」が会社によって異なることをご存じでしょうか。株式の譲渡価額に掛けるのか、それとも負債を含めた「移動総資産」に掛けるのかで、支払う手数料は大きく変わります。本記事では、移動総資産の意味と計算方法、そして仲介会社の料金表を正しく読み比べるためのポイントを解説します。
移動総資産とは——「株式価額+負債総額」
移動総資産とは、M&Aによって買い手に移転する経済価値の総額を表す考え方で、一般に次の式で計算されます。
移動総資産 = 株式譲渡価額 + 役員借入金その他の有利子負債の額
買い手は株式の対価を支払うだけでなく、会社が抱える借入金などの有利子負債も実質的に引き受けます。つまり買い手が引き継ぐ経済的な規模は「株式価額+有利子負債」であり、この全体を仲介業務の対象規模とみなすのが移動総資産ベースの考え方です。企業価値評価でいうエンタープライズバリュー(事業全体の価値)に近い発想といえます。
レーマン方式の3つの算定基礎
レーマン方式の手数料は「算定基礎×料率」で決まりますが、算定基礎には主に3つの方式があります。
方式 | 算定基礎 | 手数料の傾向 |
|---|---|---|
株価レーマン | 株式譲渡価額のみ | 最も低くなりやすい |
オーナー受取額レーマン | 株式価額+役員借入金の返済額等 | 中間 |
移動総資産レーマン | 株式価額+役員借入金等の有利子負債 | 高くなりやすい |
同じ「5%」という料率でも、算定基礎が違えば手数料額はまったく別物になります。借入金の多い会社ほど、株価レーマンと移動総資産レーマンの差は大きくなります。料金表を見るときは、料率の数字よりも先に「何に掛けるのか」を確認してください。
計算例——株式1億円・負債2億円の会社の場合
株式譲渡価額1億円、有利子負債2億円の会社を例に、当事務所の料率(移動総資産ベースのレーマン方式:5億円以下の部分5%、5億円超10億円以下4%、10億円超50億円以下3%、50億円超100億円以下2%、100億円超1%)で計算してみます。
移動総資産は1億円+2億円=3億円。5億円以下の部分に5%を適用するため、成功報酬は3億円×5%=1,500万円(税別)となります。仮に株価レーマン(同率)であれば1億円×5%=500万円ですから、算定基礎の違いで手数料は3倍の差になります。当事務所がそれでも移動総資産ベースを採用しているのは、負債を含めた事業全体の承継こそが仲介業務の実態であり、料金表の見かけの安さではなく基準の明示によって比較していただきたいと考えているためです。
最低報酬・中間金もあわせて確認する
レーマン方式の計算結果が小さくなる小規模案件では、多くの仲介会社が「最低報酬」を設定しています。当事務所の最低報酬は500万円(税別)です。大手仲介会社では最低報酬が2,000万円以上に設定されていることも多く、小規模案件では最低報酬の水準が実質的な手数料を決めます。
また、報酬の支払時期も重要です。着手金の有無、基本合意時の中間金(当事務所は成功報酬見込額の10%で、成功報酬に充当・不返還)、成約時の成功報酬という支払構造は会社ごとに異なります。総額だけでなく「いつ・いくら払うのか」「不成約の場合にどうなるのか」を契約前に必ず確認しましょう。
売り手が料金表を読み比べるチェックリスト
- 算定基礎は何か(株価/オーナー受取額/移動総資産)
- 料率の刻み(5%-4%-3%-2%-1%が標準的)と適用方法(超過部分ごとの累進か)
- 最低報酬の金額と、自社の想定規模でどちらが適用されるか
- 着手金・中間金の有無、金額、成功報酬への充当・返還の扱い
- 消費税の内外(「税別」表記か)
手数料以外に確認すべき契約条件——専任条項とテール条項
料金表と並んで、仲介契約書で必ず確認したいのが「専任条項」と「テール条項」です。専任条項は、契約期間中は他の仲介会社に重ねて依頼しないという取り決めで、中小M&Aでは情報漏えいの防止と交渉の一本化のために広く採用されています(当事務所の専任契約は期間1年・自動更新です)。専任には、仲介者が責任を持って案件に取り組めるという利点がある一方、進捗が芳しくない場合の中途解約条件も確認しておくべきです。
テール条項は、仲介契約の終了後であっても、契約期間中に仲介者が紹介した相手と一定期間内に成約した場合には手数料が発生する、という取り決めです(当事務所は契約終了後2年)。仲介者の紹介成果へのただ乗りを防ぐための条項で、これ自体は標準的なものですが、対象が「仲介者が実際に紹介・関与した相手」に限定されているか、期間が過度に長くないかは確認しましょう。中小M&Aガイドラインでも、これらの契約条件を契約前に書面で明確に説明することが求められています。説明を曖昧にしたまま契約を急がせる仲介者がいれば、それ自体が相手を見極める判断材料になります。当事務所では、料金体系と契約条件のすべてを契約前に書面でご説明しています。
よくある質問
Q. 累進の「超過部分ごと」とはどういう意味ですか。
レーマン方式の料率は、所得税の累進課税と同じように、金額の区分ごとに適用します。例えば移動総資産が8億円なら、5億円までの部分に5%(2,500万円)、5億円を超える3億円の部分に4%(1,200万円)で、合計3,700万円という計算です。「8億円全体に4%」ではありません。この適用方法自体は各社共通ですが、念のため契約前に計算例で確認しておくと安心です。
Q. 移動総資産ベースだと手数料が高くなるなら、株価レーマンの会社を選ぶべきでは。
料率表だけでは判断できません。株価レーマンでも最低報酬が高額に設定されていれば、中小規模の案件では結局そちらが適用されます。また、着手金や月額報酬の有無、不成約時の負担も総コストに影響します。さらに言えば、手数料の安さと、買い手候補の探索力・交渉力・成約後の満足度は別の問題です。算定基礎・最低報酬・支払時期・支援内容をセットで比較することをおすすめします。
Q. 負債が多い会社は手数料で損をしませんか。
移動総資産ベースでは有利子負債が算定基礎に含まれるため、同じ株価なら借入が多いほど手数料は増えます。これは、負債の引き継ぎ(金融機関との調整や経営者保証の解除交渉を含む)が仲介業務の重要な部分を占めるという実態を反映したものです。役員借入金の整理や不要な借入の返済を売却前に進めれば、移動総資産そのものを圧縮できる場合もあります。この点も含めて事前の設計をご相談ください。
実務のポイント——基準の違いを知れば手数料は「比較できる」
移動総資産という言葉は難しく聞こえますが、中身は「株式の値段+借入金」というシンプルな足し算です。仲介手数料は決して小さな金額ではないからこそ、算定基礎・料率・最低報酬・支払時期の4点を揃えて比較すれば、各社の条件は正確に見比べられます。手数料の見積りは、会社の概算価値と負債額が分かれば具体的に計算できますので、検討の初期段階で遠慮なくお尋ねください。手数料の全体像が早い段階で見えていれば、売却後の手取り額の計画も立てやすくなります。
貴社の場合の手数料を試算します
当事務所の料金体系(移動総資産レーマン・最低報酬500万円税別)で、貴社の規模なら手数料がいくらになるか、無料相談で具体的にご説明します。相談は無料・秘密厳守です。